アナリティクス

2020年8月1日土曜日

Hydraulic Clutch System for Buell XB

何が何でも油圧クラッチにしてみせる

注意 : 2022/09/20追記
この記事で14φのマスターを使ったが、スレイブ側で十分な動作量を得られなかったのかクラッチ調整スクリューベアリングを破壊してしまった。現在はこの記事のように16φに変更している。

その昔、Magraからこんなキットが売られていたらしいが残念ながら今は入手不可らしい。中古で買った時からMRCがついているにも関わらず、握力が貧弱なのかもっと軽くしたいとアコサットのクラッチレバーを使ってみた。けど、ワイヤーなので100kmぐらい連続で走ると結構ミート位置が変わる気がしてて、いちど油圧を使ってみたかったなぁとずっと思っていた。Accossatoを使う前だけど、ワイヤーの調整が甘いまま出かけた時に、千葉で渋滞にハマり続けているとクラッチを切りきれない状態になってしまい、そこそこ困った事があった。少し休んで冷やしたら問題解決したけど。

で、AliExpressで油圧クラッチを見つけてしまったので、作ろうと思った。

要求仕様確認


とりあえず今のクラッチがどんな寸法で動いているか確認

  • プライマリケースの口からタイコまでの距離85mm程度
  • タイコが引っ張られる距離(ストローク)10mm弱(Accossatoで握り切ったとき)
ビューエルXB用油圧クラッチシステム / Hydraulic Clutch System for Buell XB

MRCクラッチ+Accossatoのレーシングクラッチレバーという超怠惰仕様だったので、ストロークが10mm下回ると良くないと思われ。

鬼畜米英中華万歳(スレイブをいかにして装着するか)


出回っている油圧クラッチスレイブ(BLMに殺されそうだからレシーバーとでも言った方が良いのか?)のネジはM8、Buellのクラッチワイヤはプライマリーカバーに5/16UNF(UNCじゃなかったよ...)で刺さっている。

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ユニファイ滅ぶべし。ウィットワースもマジで死ね。なのでどうにか5/16に刺さるようにしなければならない。解決法としては...

  1. プライマリケースの穴をさらってリコイル
  2. スレイブのネジ山を5/16にする

リコイルしてしまうとワイヤに戻せなくなるので後がない。製品は選び放題なのでほんとはこっちが良いけど怖すぎるのでスレイブのネジ山をどうにかする。で、製品を眺めているとアルマイトがかかっているのとそうでない製品があるのに気がつく。アルマイトがされているのは8mmで切られたネジ山がボディと一体化していて部分的に交換できない。試しにAdelinのスレイブを買ってみたけど、やっぱりボディと一体化している。残念。で、ネジ山にアルマイトのされていない頭のおかしな値段のスレイブをさらに買ってみた。これはネジ部だけがボディから外れるので...

  1. スレイブボディ側にM8でネジ山を作る
  2. プライマリカバー側に5/16UNFでネジ山を作る

そんなパイプがあれば良い...外形8mm, 内径3mmぐらいのアルミパイプ... モノタロウで探したってそんなのねーよ。

AliExpressにはそれが30cm長で売っていたのでそれを買う。 強度的にはアルミと組み合わせるとしても304ステンレスあたりの方が良いだろうけど、加工できそうにもないのでアルミ。

ブレーキフルードとエンジンオイル


もう一つ問題がある。油圧クラッチのスレイブはブレーキフルードを使うけどプライマリにはエンジンオイルが入っている。で、プライマリ内はオイルが飛び散るのでスレイブのシャフトには油がついて、それがブレーキフルードのパッキンに触れてしまう。どれぐらいやばいのかわからないが、SBR,NBR素材のOリングの話をみているとやっぱり伝わらないようにはしないと多分やばい。

スレイブの改造


頭のおかしな値段のスレイブをバラして考え込んでみる

  • スレイブに埋まるネジ山は4mmほど
  • 固定にM8(3種)のナットの高さが必要

なので10mmほどをM8のネジ山にする。

  • プライマリには15mmほどのネジ山を確保
  • 固定に5/16(UNF)ナットの高さが必要(3種が良いけど手に入らなかった...)

なので25mmほどを5/16のネジ山にする。 プラスそれぞれの側に削りしろを足してテキトーにネジパイプを作る。

パイプを切り

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ネジ山をダイスで作って

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5/16の端に5mmほどの穴をあけ

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内部をルーターでほんの少し削りOリングのハマる溝を作る

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だるい... パイプが出来るだけまっすぐダイスに送り込まれるようにするのに結構工夫が必要で2本ほどパイプをダメにしてしまった。手でダイスとパイプを支えてもそりゃまっすぐにならないな...

工夫 : (垂直穴あけガイド)

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で、これを板でダイスと共にサンドイッチする
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あと、スレイブにはMRCに接続するのに適当なパーツが無いので、並行ピンに2mmの穴を開けてM2.5のネジ山を作ってスレイブのシャフトが刺さるようにした。


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これはやらなくて良いことだけど、横から回すのでボルト頭っぽくルーターで削ってみた。

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ラジオペンチで回るよ、こんなもん。

マスターシリンダは?

スレイブのシリンダ内径が12.7mm(1/2inch?)ほどなのでそれを10mmストロークさせるとなると、1.27ccほどのフルードが送り込まれる必要がある。Adelinのマスターシリンダを見ると 14, 15, 16, 17.5, 19φが見つかる。それぞれの径でマスターシリンダ側に要求されるストロークを考えると

マスタシリンダ径 要求ストローク
14φ 8.22mm
15φ 7.17mm
16φ 6.30mm
17.5φ 5.27mm
19φ 4.47mm

どれを見ても今より重くなる傾向...まぁ仕方ない。クラッチレバーを握りこんだ時に、スレイブのピストンが動く量を考える。レバーを握りこむとマスターシリンダのピストンはだいたい10mm動くので、スレーブのピストンは12.15mmほど動く。Accossatoを入れる前の重さに戻りそう...
何れにしても14φがこの中ではもっとも要求に近いのでマスターはこれにした。

握りこむとスレイブのピストンは12mm動く...でもスレイブのストロークは10mmしかない。スレイブのストロークを確保するために少し工夫。

蓋の裏に金属板の輪っかを仕込んで

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この辺までピストンが出て来られるようにする

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蓋はここまでしか閉まらないようになる

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もうちょっとストローク許容長があるスレイブがほしい。

スレイブの組付

まずはプライマリーケースに刺さっているクラッチワイヤを外す。

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プライマリにスレイブを刺してみる

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タイコとMRCクラッチの位置関係はこんな感じ。スレイブのロッドが長すぎる。

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スレイブのロッドを切る。自分はこういうのを切るのにダイヤモンドディスクをルーターで回して切っている。面取りにも便利だし。

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スレイブのロッドはクラッチを引っ張らない(ピストンがボディ内に押し込まれた状態)で、プライマリケース座面から88.5mmほど。88mmぐらい。


タイコをMRCに組んでみる。タイコ(並行ピン)の長さによりプラプラ(名前わからん)がMRCに組まれた状態なら、プライマリケースに落とす心配はなさそう。

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スレイブを再びプライマリケースに差し込む。この時スレイブのロッドを早めにタイコに食わせて、タイコをラジオペンチでホールドしつつスレイブをねじ込むと、ロッドも一緒に回転してタイコに入っていく。タイコをちょこちょこ回転させてロッドを食わせる手間を出来るだけ減らす。あと念の為タイコにネジロックを垂らしておいた。

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ブレーキフルードをボディに満たして

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ブレーキホースを組み付ける。
この時にスレイブボディを何かでホールドしながらバンジョーボルトを締め込まないと多分せっかく作ったネジパイプが折れてもげる。
所詮アルミパイプ。強度はないので

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ブレーキホースの組付

ブレーキホースをクラッチワイヤ経路を使って通す。
こことか。

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ここ

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はバンジョーが通らないのでホースを通してからブレーキホースを組み上げる。
つまりトップブリッジとブレーキは一心同体。外せなくなる。

とおしてとおしてとおして

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PVCとワイヤをダイヤモンドディスクで切り

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PTFEをカッターで切る

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コレットをハメて

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玄能で叩き込む

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バンジョーを差し込んでナットを締め上げる。締めていくとホースが捻れていくけど、それも込みで上手いことバンジョーの座面がマスターシリンダと合うようにどうにかこうにか締め上げていく。

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バンジョーボルト(スイッチ面倒なのでプレッシャスイッチを使った)でバンジョーをマスターに付けて終わり。

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エア抜きして


とりあえず、もうちょっとエア抜きをやってみて、クラッチ軸のマイナス回しつつレバーを握ってみてアソビをかなり追い込む。レバーにはアジャスタは無いしワイヤー途中のアジャスタも無い。遊びを調整できるのはこことタイコだけ。

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完了

とりあえず試走

中井広域農道とか回って合計70km程走ってみた。
特に問題なし。

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個人的感想として

良い点

  • クラッチスプリングそのままのダイレクト感
    ワイヤのモヤッとした感じは無くなる
  • 握り込む時の感覚は軽い
    握り切ってしまうと同じか重いかという感触

ダメな点

  • とにもかくにも整備性が極悪。 調整はメンテナンスカバーの中だけだし、トップブリッジやガイドからホースが抜けないとか売り物だったらあり得ない。
    (しかも30mmのテンショナースプリングでは整備性の改善とか言ってたくせにやったのは自分)
  • Adelinのマスターであること
    (中華と戦争にでもなったらレバーどうしよ?)

最後までやりきって見えることがある。
ワイヤのモヤッとした感じがなくなってスッキリしたけど、峠に入ると実はあまり気にしていなかったということを。
せっかく作ったからそのまま使うけど。
使えるものになっているかどうかは、次のオイル交換の時にでも確認しよう(多分オイルがネジパイプ内に入ってるだろうけど)

2020/08/31 追記
しばらく乗っていると停車時にニュートラルを出すのが難しく感じた。なのでクラッチの調整スクリューをさらに締め込んで試したところ、今度はクラッチが滑りまくり。クラッチの調整スクリューは60°ごとにしか動かせないので結局タイコで微調整する必要が出てしまった。ラジオペンチで回るよなんて書いたけど、ネジロックが結構ちゃんと利いてしまって、結局ねじ部にロックナットを追加して、タイコも組んだ状態でスパナでホールドできるよう追加工(スパナ入らなかった...)
さらに調整を加えてようやく滑りも無くきっちり切れる感じになった。14Φのマスターだと、握りきるまで全体をつかってしまうので、15Φの方がいいかも。重くなるけど。
ここまで調整しきって椿行ってみたけど自分にとってはイイ感じ。クラッチを何度も握る必要があるところ行くとだいぶ楽に感じた。